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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)403号 判決

控訴人 坂本健次

右訴訟代理人弁護士 城田冨雄

被控訴人 大井啓逸

右訴訟代理人弁護士 奥野兼宏

同 河村正史

主文

原判決中被控訴人に関する部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は主文第一、二項同旨の判決を、被控訴人は控訴棄却の判決をそれぞれ求めた。

当事者の主張及び証拠関係は、双方が当審において本件裁判上の和解について無効、取消の原因となる瑕疵は存在しないと述べたほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  被控訴人は、本件裁判上の和解に先立って被控訴人主張の和解金支払を内容とする裁判外の和解が成立していた旨主張するが、右裁判上の和解の和解条項が原判決別紙のとおりであること及び右和解に無効又は取消の原因となるような瑕疵の存在しないことは当事者間に争いがなく、右和解条項第五項を見れば、同第一ないし第四項において各登記抹消義務と引換とされた金銭の支払が控訴人の義務ではなく、単に右登記抹消義務履行の条件とされているに過ぎないことが明らかであり、仮りに裁判外で被控訴人主張のような合意があったとするならば、その合意は右第五項によって変更され、これにより右合意による控訴人の金銭支払義務は消滅したといわざるをえない。それ故、被控訴人の本訴請求は主張自体失当であって棄却を免れない。

なお付言するに、本件裁判上の和解では、控訴人が右和解条項第一ないし第四項所定の期間内に所定の金銭を支払った場合には、これと引換に被控訴人らにおいて同第一ないし第三項記載の各登記の抹消登記手続をすること、控訴人が右期間内に右金銭を支払わなかったときには、控訴人が右所定の金銭を支払って同第一ないし第三項記載の各登記の抹消登記手続を求める権利を喪失すること、及び控訴人がその余の請求を放棄するとされたことのほかには、何らの定めもされていないことが明らかであるところ、控訴人が右の期間内に金員を支払わなかったときに喪失するのは、和解契約に基づく登記抹消請求権であって、訴訟物たる所有権に基づく登記抹消請求権ではないことは明らかであり、また控訴人がその場合においても、所有権に基づく右権利をその余の請求としてすべて放棄したと解すべきでないことももちろんである(もし反対に解するときは、将来仮登記に基づく本登記請求権の不存在又は根抵当権の不存在が判決で確定した場合においても所有権移転仮登記又は根抵当権設定登記は抹消されずに残ることとなり極めて不合理である。)から、控訴人が右期間内に右金銭を支払わないときは右和解の対象となった紛争そのものは何ら解決されていないというほかはないが、右和解に内在する訴訟終了の合意はもちろん有効であるから当庁昭和五二年(ネ)第二一四七号所有権移転請求権仮登記抹消登記手続等請求控訴事件は、右和解によって終了したものというべきであり、本件当事者双方は再度訴によって右紛争を解決するよりほかに途はないものと考えられる。

二  そうすると、被控訴人の請求を認容した原判決中被控訴人に関する部分は不当であるから、これを取消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 寒竹剛)

〈以下省略〉

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